能楽堂 京都観世会館

(みだれ)

あらすじ

 唐土(中国)かね金山(きんざん)の麓に住む高風(こうふう)は、日頃の親孝行のおかげで不思議な夢を見ました。それは揚子(ようず)の市場で酒を売れば裕福になれるという夢でした。夢の告げに従って酒を売った高風は、次第に豊かになりました。また高風の酒を買う常連客には、いくら酒を飲んでも顔色が変わらず、自らを海中に住む猩々(しょうじょう)と名乗る者がいました。そこで高風は酒を壺に満たして、潯陽(しんよう)の入り江で猩々を待つことにします。

 秋の月夜。猩々が現れ、友の高風との再会を喜びます。猩々は高風と酒を飲み、興に乗じて舞を舞い始めます。そして高風の正直な心を褒め、飲んでも尽きることのない酒の壺を与えます。尽きぬ酒のめでたさを称えた猩々は、さらに酒を飲むと、酔いがまわったのか、よろよろと酔い伏してしまいます。やがて高風の夢も覚めましたが、酒の尽きない壺はそのまま残っており、高風の家は末永く栄えたのでした。

見どころ

 猩々は想像上の動物です。中国最古の地理誌『山海経(せんがいきょう)』には、猿のようでありながら人面で、人のように走るなどと記されています。猩々が酒を好むというのは、中国から日本に伝わりました。が、猩々が富を授けるという伝承は中国にはありません。福の神的な猩々のイメージは、能〈猩々〉によって日本で成立したとも考えられています。

 〈猩々〉には独特な点が数多くあります。微笑みをたたえた赤色の「猩々」の面は本曲専用の面です。装束や(かしら)(仮髪)もすべて赤系統で統一されています。猩々の登場場面は、「(さが)()」という浮やかなリズムの囃子と、伸びやかなテンポの「(わた)拍子(びょうし)」の謡で表現されます。赤色の出立(いでたち)と明るい囃子・謡によって、めでたい雰囲気が醸し出されます。

 見どころは猩々の舞。通常は「(ちゅう)(まい)(基本的な中庸性のある舞)」を舞いますが、小書(こがき)(特殊演出)扱いにして、「(みだれ)」の舞を舞うこともよくあります。その場合は曲名そのものを〈猩々(しょうじょう)(みだれ)〉や〈乱〉と変更します。「乱」の囃子は旋律が独特で、テンポも変化をします。それに合わせて、水上をすべるような「流レ足」、波を蹴立てるような「乱レ足」など、常のすり足ではない特別な足さばきを見せることもあります。猩々が酒に酔った様子、または水上を戯れる様子を表しています。

 〈猩々〉には小書が数多くあります。酒壺の作り物(舞台装置)が出されたり、複数の猩々が登場して一緒に舞ったりなどの華やかな演出によって、めでたさを強調しています。

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